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西 信之(教授)(4ページ) 分子研リポート2009 | 分子科学研究所

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研究領域の現状 195

6-4 物質分子科学研究領域

電子構造研究部門

西   信 之(教授) (1998 年 4 月 1 日着任)

A -1).専門領域:クラスター化学,電子構造論,物理化学,ナノ構造体

A -2).研究課題:

a). 金属と炭素によるナノ構造体の創成とその機能発現(金属アセチリド化合物を用いた機能性物質の創成) b).銅アセチリド系化合物の自己組織化を用いたナノ構造体の創成と機能材料化

c). アセチリド錯体を用いた分子性磁性体・ナノ磁性体の開発

d).赤外光吸収解離分光法による金属イオン溶媒和クラスターの微視的相互作用

A -3).研究活動の概略と主な成果

a). 金属アセチリドを用いて,芳香族2次元縮合シートであるグラフェンで出来たナノセル積層体を1段階の反応で合成する事は, 基礎科学的にも応用の面に於いても極めて重要な課題であった。銀アセチリドを超音波を用いた合成法によって,外壁はグ ラフェン2〜3層,内部の仕切りはグラフェン1層を主体とするメソ多孔性炭素ナノ樹状体(M C N D)を生成させることに成 功したが,これは,B E T 表面積が 1600 〜 2000. m

2

/g,窒素ガスの分圧が 0.95 に於ける吸着量は 2,000. mL /g と極めて大き な値を示した。これは,1. nm 以下のミクロ孔もかなりの割合で含むものであるが,銀の代わりに銅,アセチレンの代わりにメ チルアセチレンを用いて銅メチルアセチリドのワイヤー結晶を用いた,偏析反応を行わせると,メタン,エチレンのガスが発 生し,更に高温で銅ナノ粒子が系外に飛び出し,5 ~ 20.nmの球状のメソポアを持つ厚さ 50.nm 程度の長さが 1.mm 以上の 炭素ワイヤーあるいはプレートレットが得られることが判った。外壁は,2–10 層のグラフェンである。また,銅ナノ粒子をマ イクロ波で励起すると,このグラフェン壁が平衡性が良くある角度で交差しあう平面部分の組み合わせで構成される特異な 角形セル構造を生み出した。このセルの中に金属を液体状態にして吸い込ませると,グラフェン壁で仕切られたナノドメイン を持つ新しい物質が出来上がる。特に,3d,4d,4f 軌道を持つ金属は,波動関数のしみ出しによるドメイン間の相互作用が 大きくなり,電導性や磁性に特異な挙動の発現が期待される。

b).銅アセチリド分子は水溶液中の反応で,直径が 5. nm 程度,長さが 1.mm に及ぶナノワイヤー構造体へと自己組織化によっ て結晶成長させることができる。大気下の溶液反応で容易に,又,大量にナノ構造体を得ることができるため,その成長機 構を解明し様々な化合物に適応すること,および,自己組織化で得たナノ物質を材料科学へと展開することは大変重要である。 本研究では,銅アセチリドの生成に関して置換基効果を調べるため,アセチレンガスではなく,メチル基がついたプロピンガ スで反応を行った。走査型電子顕微鏡の観測より,銅メチルアセチリドも,銅アセチリドと同様にナノワイヤー構造へと自己 組織化により結晶成長できることが判明した。アセチリド化合物が一般的にナノワイヤー構造へと自己組織化できる可能性 がある。さらに,メチル基置換した場合は,通常のアセチレンガスを用いる場合よりもアモルファス状の副生成物が少なく, 純度良くナノワイヤーが得られるため,材料化に対して適していることも判明した。現在,銅メチルアセチリドを真空中で加 熱変換し,水素吸蔵関連の触媒としての性質を評価している。

c). 遷移金属ニトリル錯体が分子性磁性体の構成要素として数多くの興味深い物質を生み出しているのに対し,等電子錯体で ある遷移金属アセチリド錯体はその不安定性のため磁性体としての研究はほとんど行われていない。しかし近年,大気中で

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196 研究領域の現状

の安定な常磁性アセチリド錯体がいくつか開発され始めており,アセチリド系磁性体を開発するための環境が整いつつある と言える。そこで安定常磁性アセチリド錯体である[CrCyclam(C≡C–R)2]+を用いた物質開拓を行い,対アニオンとして平板 状ジチオレート錯体[Ni(mdt)2]を組み合わせることで遷移金属アセチリド錯体からなる初の磁性体,[CrCyclam(C≡C-3- thiophene)2][Ni(mdt)2] および [CrCyclam(C≡C–Ph)2][Ni(mdt)2](H2O) という二種類の物質を開発することに成功した。前者は

スピンS. =. 3/2 のカチオンと S. =.1/2 のアニオンが交互に積層し NaC l 的な構造をとっており,2.3. K に転移温度を持つフェリ 磁性体であった。後者はカチオン−アニオンからなるフェリ鎖を基本構造とし,鎖間ではフェリ鎖同士でスピンを打ち消すよ うな分子間配置を取っている。このため結晶全体では反強磁性となることが予想されるが,実は結晶中に取り込まれた水分 子が局所的な対称性を破ることにより Dzyaloshinsky −守谷相互作用が生じ,スピンがわずかに傾くことで自発磁化を生じる 弱強磁性体となっていることを発見した。

d).金属原子イオンを分子で取り囲んだ溶媒和クラスターは,溶媒中の金属イオンの挙動を調べる溶媒和モデルとして,極めて 基礎的な化学の研究対象である。同じ価電子数をとる銅正イオン原子と銀正イオン原子に対してアンモニア分子が配位した ときの幾何構造を赤外レーザー光照射による気相中での解離実験と密度汎関数法や摂動論による分子軌道計算から明らか にした。アンモニア分子が4個から9個配位したクラスターでは,銅イオンでは2個のアンモニアが直接結合し,残りのアン モニアがその周りを取り囲んだ構造をとり,銀イオンでは4個のアンモニアが直接結合する。同じ価電子数にもかかわらず, 第1溶媒和分子の数に明確な違いが観測された。イオン半径の差による立体的な構造のみで2個と4個という溶媒和分子の 数の差を説明することができず,溶媒和する際の金属原子の s 軌道と d 軌道の混成エネルギーが幾何構造に影響を与えた と結論した。

B -1). 学術論文

S. NUMAO, K. JUDAI, J. NISHIJO and N. NISHI, “Synthesis and Characterization of Mesoporous Carbon Nano-Dendrites with Graphitic Ultra-Thin Walls and Their Application to Supercapacitor Electrodes,” Carbon 47, 306–312 (2009).

J. NISHIJO, S. NUMAO, K. JUDAI and N. NISHI, “Ferromagnetic Interaction Between [Ni(bdt)2] Anions in [Mn2(Saloph)2 (<m>-OH)][Ni(bdt)2](CH3CN)2,” Polyhedron 28, 1664–1667 (2009).

S. TAKAYAMA, K. KAKURAI, M. TAKEDA, A. MATSUBARA, Y. NISHIHARA, J. NISHIJO, S. SANO, N. NISHI and M. SATO, “Investigation of Crystal Structure Formation under Microwave Heating,” Nucl. Instrum. Methods Phys. Res., Sect. A 600, 246–249 (2009).

J. SASAKI, K. OHASHI, K. INOUE, T. IMAMURA, K. JUDAI, N. NISHI and H. SEKIYA, “Infrared Photodissociation Spectroscopy of V+(H2O)n (n = 2–8): Coordinative Saturation of V+ with Four H2O Molecules,” Chem. Phys. Lett. 474, 36–40 (2009).

J. NISHIJO, K. JUDAI, S. NUMAO and N. NISHI, “Chromium Acetylide Complex Based Ferrimagnet and Weak Ferromagnet,” Inorg. Chem. 48, 9402–9408 (2009).

B -2). 総説,著書

西 信之,佃 達哉,斉藤真司,矢ヶ崎琢磨 ,.「クラスターの科学 —機能性ナノ構造体の創成 —」,. 米田出版. (2009) . ISBN978-4-946553-38-7.C3043

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研究領域の現状 197 B -4). 招待講演

西 信之 ,.「金属アセチリド化合物を用いた新規ナノ構造体の創成とその物性」,. ナノ学会物性部会 ,. 神戸大学滝川記念館 ,. 2009年 1月.

西 信之 ,.「分子を利用した近未来技術」,.岡崎商工会議所 ,.岡崎 ,.2009年 1月.

N. NISHI, “Functions and Structure of Graphene-Walled Mesoporous Carbon Nano Dendrite,” Okazaki Conference 2009

“From Aromatic Molecules to Graphene: Chemistry, Physics and Device Applications,” Okazaki Conference Center, Okazaki, February 2009.

B -5). 特許出願

特願 2009-109857,.「非水電解液電池用負極及び非水電解液電池」,. 山本康平,安達紀和,梅本久,山田 学,西 信之, 沼尾茂悟 ,.2009年 .

B -6). 受賞,表彰

西 信之 ,.井上学術賞.(1991). 西 信之 ,.日本化学会学術賞.(1997). 西條純一 ,.日本化学会優秀講演賞.(2007).

十代 健 ,.ナノ学会第6回大会若手優秀発表賞.(2008). 沼尾茂悟 ,.ナノ学会第6回大会若手優秀発表賞.(2008). 西條純一 ,.分子科学会平成21年優秀講演賞.(2009).

B -7). 学会および社会的活動

文部科学省,学術振興会,大学共同利用機関等の委員等 九州大学理学部運営諮問委員.(2007.4–2010.3). 核融合科学研究所連携推進センター評価専門委員. 日本学術振興会特別研究員等審査会委員.(2008–2009). 日本学術振興会グローバル COE プログラム委員会専門委員.

「元素戦略プロジェクト」における審査検討会委員 (2008–2009). 学会誌編集委員

Chemical Physics Letters,.member.of.A dvisory.Board.(2005–2009).

競争的資金等の領域長等

文部科学省. ナノテクノロジー支援プロジェクト「分子・物質総合設計支援・解析支援プロジェクト」総括責任者. (2002– 2006).

その他

総合研究大学院大学物理科学研究科研究科長.(2004.4–2005.3).

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198 研究領域の現状 B -10).競争的資金

日本学術振興会科研費基盤研究 (B),.「金属アセチリド化合物を用いたナノ複合金属炭素構造体の創成と構造科学」,. 西 信 之.(2005年 –2007年 ).

文部科学省科研費若手研究 ( B ) ,.「銅アセチリド分子の自己組織化を用いたナノワイヤー合成法の確立と応用展開」,. 十代 健. (2005年 –2007年 ).

日本学術振興会科研費基盤研究 (B),.「新規な金属原子単層担持グラファイト性多孔質ナノカーボンの創成」,. 西 信之. (2008 年 –2010 年 ).

文部科学省科研費若手研究 (B),.「アセチリド錯体を用いた分子性磁性体・ナノ磁性体の開発」,.西條純一.(2008年 –2010 年 ).

C ). 研究活動の課題と展望

金属アセチリドの研究の中から,その大きな発熱性を利用して,金属を突沸によって系外に排出し,グラフェン壁で出来た炭 素ナノ樹状構造体(M C N D),及び,グラフェン多層膜で出来た 10. nm 前後の球 状メソ孔集積体(G raphi ti c. A l v eol ate. Carbon:.GA C)を作るという手法を開発した。これらは,ガス吸着体としてばかりでなく,全体が1体となっており,グラファイ ト構造に富むために,スーパーキャパシタや各種2次電池,燃料電池の電極として活用されることが期待される全く新しい炭 素構造体である。このグラフェン壁で出来たナノセルの中で,金属ナノ粒子を小さな出入り口からは脱出出来なくなるまで成 長させると,全てのナノ結晶表面を安定に露出させ,気相ガス分子や溶媒中のイオン種や反応性分子と相互作用出来るよう になる。今後は,マイクロ波励起法の採用によって,メソ孔内容積の増大とグラフェン壁の平行性をより増加させ,金属ナノ ドメイン同士のグラフェン壁を通した相互作用の研究へと展開し,ナノドメインからなる新物質の開拓へと進めて行きたい。 スーパークラスター研究の究極である,金属エチニル超超クラスター分子の研究も,芳香属分子の無限スタック構造が実現 しているために様々なモディフィケーションによって電子構造的にも興味深い分子系が構築できそうである。特に,電導性や

磁性に焦点を当てて,この分子から生成する金属ナノ粒子配列系の研究を進めて行きたい。

参照

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